Fate/Apocrypha
;「アッシリアの女帝よ。<br> 一四騎のサーヴァントによって執り行われるこの聖杯大戦。<br> 私は勝利や敗北とは違う場所を目指します。協力して頂けますか?」
: 召喚した際、アサシンへの返答。従えるにはあまりに危険な毒婦に対し、彼はただその意思を告げる。
;「行こう、アサシン。あの悲劇は繰り返さない。<br> 大聖杯は───俺たちのものだ」
: 虚栄の空中庭園が完成した時の台詞。少年の頃に抱いた思いを胸に秘め、決意を籠めた眼差しで高く透明な天を見上げる。
;「もしも、私の計画が神に背くモノであれば。私はこの戦場で必ずや討ち果たされるでしょう。<br> 不幸にもサーヴァントと戦って死ぬか、あるいは油断してゴーレムやホムンクルスに殺される。<br> ひょっとすると、味方の宝具に巻き込まれるかもしれない。<br> もし、そうなら粛々と死を受け入れましょう。神は私を許さなかった。<br> それはそれで、致し方のないことです。ですが、もし──<br> もし、何もかも上手くいったのであれば。それは神が俺の行いを赦されるということだ。<br> 全ての人間を慈しみ……そして、癒すために、あの大聖杯を欲するという俺の願いが正しいということ。<br> それさえ分かれば、もう迷うことは無い。決して裏切ってはならぬモノまで裏切った甲斐があったというものだ」
:アサシンに語った、「自ら死地に赴く」事の理由。
:静かだが、他者のは理解できない尋常ならぬ強迫観念に囚われており、迷わぬという意思を固めるための儀式でもあった。
:余談だが、新約聖書には「主なるあなたの神を試みてはならない」という記述が存在する。聖書に背く四郎の思惑は、聖人であることを捨てた証とも、生前における教養の限界とも取れる台詞になっている。
;「……愚かなことです。刹那の寿命であろうとも、完璧な存在であろうとする方が遥かに良いだろうに」
:敵対していようが、味方となっていようが、自身も含めて駒しか存在しない戦場に打たれた意図せぬ駒に、説明がつかぬ苛立ちを抱いた。聖人が初めて名もなきホムンクルスを意識した瞬間。
;「この時を待っていたのさ、ダーニック!冬木の聖杯は、俺のものだ!<br> 魔術師、あるいは吸血鬼。<br> どちらでもないにせよ───世界を破滅に追いやるしか能の無い貴様に、この大聖杯は断じて渡すものか!」
:念願の聖杯を前にして立ち塞がる、有り得ない敵に絶句する吸血鬼を他所に、少年はますます声高らかに叫ぶ。
;「知れたこと。<br> 全人類の救済だよ、ジャンヌ・ダルク」
: ルーラーと同じく「奇跡」と謳われた少年が告げた自身の願い。その願いは狂気に近い。
;「あの戦争で受肉して六十年この時を待った!今更引き返す選択肢など俺にはない!」
;「その通りだジャンヌ・ダルク。私はもはや聖人でも英霊でもないのだろう。だが人類を救済するという奇跡は起こして見せる、必ず!」
:アニメ版13話にて、上記の願いをルーラーから英霊の領分を逸脱するものと糾弾された際の返答。既にあらゆるものを犠牲に、この機会を掴んだ彼は己の願いを譲らぬ意志を示す。
:ルーラーの返答は「今を生きる人間に祈りを託さないあなたに英霊の資格はない」という謗りだったが、彼はそれを肯定しつつ人類の救済に邁進し成し遂げることを改めて宣言する。
;「───かつて、憎んだことはある」<br>「神も、人も、全てを憎んだことはある。それは認めようライダー。<br> 私はかつて、確かに人間が憎かった。自分を殺されたからでも、仲間を虐殺されたからでもない。<br> それを歴史の<RUBY><RB>構造</RB><RT>システム</RT></RUBY>として受け入れる人類そのものが憎かった。<br> 強者と弱者があり、互いに喰らい合い、命を浪費することで成長し続けるという人類がただただ憎かった」<br>「だから、私は捨てたぞライダー。<br> 彼らを憎悪するという心を、人類救済のために切り捨てた。<br> だから今は憎くなどない。この世界の誰であろうと、必ず救う。必ずだ」
:ライダーから自分と自分に付き従った連中を殺した人間が憎くないのかと問われた際の返答。返答次第では即座に槍を使うつもりだったライダーに対し、向かい合い、目線は逸らさない。そこに狂気の片鱗はなく、強者の驕りもない。「奇跡」と謳われ挫折した少年の瞳は、ぞっとするほど、透明だった。言葉の後には、ただ沈黙が広がる。
;「ええ。六十年もの間考え続けて、悩み続けた結果、私は此処にいることを選んだのです。恐怖はあっても、後悔はない。それではキャスター、準備を──する前に」
;「令呪を以て命ずる。キャスター、私に関して悲劇を書くな」
:長い時間を考え、悩み、遂に迷いを捨てた四郎は負ければ終わりの戦いへと挑むが…
:シェイクスピアはこの状況下なら悲劇を書きたがると信頼していたことで使われた令呪。あまりに残酷と嘆かせたが、四郎にそう決意させたのはシェイクスピアの書いた四大悲劇を読んだからであり、読むように頼んだのはシェイクスピア本人である。
;“我が右腕は邪を喰らい、我が左腕は天を繋ぐ”
: 大聖杯中枢への宝具接続。Dランク宝具に過ぎない二つの腕は人類救済を叶えるために大聖杯の改変へと挑む。
;全てを憎むか。全てを悲しむか。<br>……私は選んだのだ。全てを悲しもう、全てを慈しもう。私は人間を信じている。いつか、当たり前のようにそこへ到達するのだと信じている。<br>だけど、辿り着くまでに失うものは沢山あって。<br>無念は雪のように降り積もっていく。<br>私にできることはないだろうか。私が人の哀しみを癒やす方法はあるのだろうか。<br>──あった。<br>確かにそれは人を正しく救済する。辿り着くべき場所に至る唯一の近道だった。
: いつか人間は悪性を乗り越えて平和へと至る。そう信じているからこそ、それまでに失うもの、無念、哀しみを癒やしたいと、減らしたいと願ったからこそ四郎は第三魔法を求める。
;聖人では人は救えても、現実から救うことも未来を得ることもできなかった。<br>戦いは人類を成長させる。それは事実かもしれない。だけど、それでは──それでは、弱者が踏みにじられ続ける世界となってしまう。<br>だから救う。<br>全てを救うのだ──
: セミラミスを召喚するなり語った目的。当然戯言だと一笑に付されたが、その後契約を結び、彼の足掻きを理解した最古の毒殺者は彼への協力を誓う。
;「そうだ。だからこれは、この私を──天草四郎時貞を信じてくれた、皆の力だ」
:かつて民に、奇跡を信じさせて「しまった」両腕。呪いと思い、生前の虐殺時に切断されたことで四郎に絶望ではなく歓喜を抱かせた腕は、四郎を信じた人々の信仰により、英霊となった彼の願いを叶える力となる。
;「──聖杯に問う。我が奇跡は誤りか、我が願いは異端か、我々が信じたものは切り捨てられるべきものなのか」<br>「ならば。我々は何故美しいと思うのか。何故平和を愛し、幸福を愛し──それが第三者のものでさえ、愛しく思えるのか」<br>「それは、いつかここに辿り着くべきだと。<br> そう考えていたからではないか。答えよ、<ruby><rb>万能の願望機</rb><rt>せいはい</rt></ruby>、答えてみせろ!我が願望に邪悪はあるか!!我らの希望に汚点はあるかッ!?」<br>「ならば、我が願いを聞き届けよ。我らの祈りを確かなものとしろ!<br> 聖杯、己はその真の役割に殉じるがいい!人類は<ruby><rb>天の杯</rb><rt>ヘヴンズフィール</rt></ruby>を掴み、無限の<ruby><rb>星々</rb><rt>ソラ</rt></ruby>に至るのだから!」
:人類史において数々の人が祈り、叶うことがなかった「人類が全て、等しく平和で幸福に満ちていますように──」という祈り。それが傲慢であると、罪であると、そんなものは存在しないと、幻想だと、そう考えるほうが邪悪であると「正しい現実」の前に踏みにじられて来たモノ。
:それでも。それでも平和を願った願いは遂に辿り着く。第三魔法、天の杯。人を次のステップへ押し上げ新たなステージへと導く奇跡である。
;「叶いたり!我が夢は、此処に叶いたり───!!」
:歓喜の絶叫と共に、女帝と比較しても何ら遜色なき"王"の風格を携え、<RUBY><RB>支配者</RB><RT>マスター</RT></RUBY>へと至った聖人が、此処に凱旋した。
;「では、何故──いえ、そうですね。貴方は個人を救い、私は全てを救うことを望んだ」<br>「貴女はご自分を聖人ではないと仰るでしょうが。私は誰より、貴女を聖女だと信じます。私も貴女のように考えようとした時期もあった。しかし、私には耐えられなかった」
: 自身の掲げる救済と、シェイクスピアの宝具に寄って心折れかけてなお立ち上がったジャンヌの救済の違いから、ジャンヌにかつての自分の抱いたこととその先を見る。
;「<RUBY><RB>彼</RB><RT>ジーク</RT></RUBY>、ですか。<br> ……なるほど、確かに<RUBY><RB>あなた</RB><RT>ジャンヌ</RT></RUBY>が好む人間そのものであり──私が嫌う人間そのものです。<br> 生まれた瞬間、彼は確かに完全だったはず。<br> 我欲は極めて薄く、己を含めた全ての存在に公平で、死ぬまで生きることができる理想の生物だったはずだ」
:己の救済を拒絶したジャンヌに現界した直後と、今で何が違うと問い、ジークという答えを返され、聖人は名もなきホムンクルスに明確な敵意を抱くと同時に苛立ちの理由を悟る。
;「生きたい、そう願うことで人は悪を為してきた。そして、これからもそうでしょう」
:上記の台詞にジャンヌが生きることが悪なのかという問いへの答え。生前の十七年と、受肉してからの六十年の苦悶の末に至った、あまりに悲しく、そして一片の真実を含んだ聖人の諦観。
;「ホムンクルス。貴方はどうなのです?<br> かつての自分の方が良かったと思いませんか?そこに苦悩はなく、痛みもなく、絶望もない。死を実感しながら、生を求めて足掻くこともない」
;「……ならば、貴方も私の敵だ」
:かつて完全な存在であった少年に対する最後の問い。しかし、少年の答えは「貴方たち人間が羨ましい」という彼からすれば憎悪に値するものだったのだ、聖人は完全な存在から逸脱し人間へと堕落したホムンクルスを激しく憎んだ。
;「<RUBY><RB>天の杯</RB><RT>ヘヴンズフィール</RT></RUBY>、<RUBY><RB>所有者</RB><RT>オーナー</RT></RUBY>への注力開始。『<RUBY><RB>右腕・空間遮断</RB><RT>ライトハンド・セーフティシャットダウン</RT></RUBY>』、『<RUBY><RB>左腕・縮退駆動</RB><RT>レフトハンド・フォールトトレラント</RT></RUBY>』」<br>「救国の聖女よ。六十年の執念を甘く見るな。この天草四郎時貞を甘く見るな」<br>「『<RUBY><RB>右腕・零次集束</RB><RT>ライトハンド・ビッグクランチ</RT></RUBY>』」
:大聖杯を破壊せんとする聖女の焔を迎え撃つために右腕を犠牲にした奥の手。
;「お、のれ……これでも、まだッ……まだ我が希望を喰らうのか……!!<br> 負けるものか、ジャンヌ・ダルク!!貴様如きの執念が、俺の執念に勝ると思うか!<br> これは人類の希望そのものだ!!耐えろ───耐えろ、<RUBY><RB>天の杯</RB><RT>ヘヴンズフィール</RT></RUBY>!!」
:上記の代償も空しく、聖女の捨て身の焔は大聖杯に至った。六十年の刻、二千年の業、それら全てを思い起こし、聖人は咆哮する。
;「怒りか!ホムンクルス!彼女を殺されたことへの怒りか!?」<br>「俺が捨てた感情で立ち向かうだと?ふざけるな!」<br>「お前にだけは!負けるものかぁぁぁぁ!!」
:敗北した二人のサーヴァントの力を持つ最後の敵への問いと負けられない意志。生前自分も抱きながら救済のために捨て去った感情を持つある種の完璧な存在への憤りは明確な敵意となる。
;「人の明日を拒むな、ジーク!」
:初めて名を呼んだ最後の敵への執念。だが、彼の怒りが救済を阻んだ。
;「ああ、それは。……話して謝れば、分かってくれるかなと」
;「言葉を尽くして、それでも納得されなかったら───それで終わりですよ。<br> 元々、貴女を騙していたのはこちらです。だから、もし貴女が納得しなかったのなら」
:アサシンから成功した時に自分をどうするつもりだったかと聞かれ、あらゆる手練手管で聖杯大戦において暗躍した聖人とは思えぬほどに呑気な言葉。
:自分が納得したと思うかと女帝が呆れたように問うのに対し、聖人は事も無げに、殺されても、傀儡にされても構わなかったと答えた。
;「───いいえ。充分な報酬です。ありがとう、セミラミス。君に会えて、良かった」
:最後まで素直ではない女帝からの<RUBY><RB>報酬</RB><RT>キス</RT></RUBY>を受け取り、聖人と呼ばれた少年は二度目の死を迎えた。