英霊
魔術概念における正式名称は「境界記録帯(ゴーストライナー)」。神話や伝説の中で為した功績が信仰を生み、その信仰をもって人間の霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者。
それが実在であろうとなかろうと、人類が存在する限り常に在り続けるもので、実在した英雄でも、実在しなかった英雄でも、英霊が“地球で発生した情報”である事は変わらない、時間軸の外にいる純粋な『魂』であり、無色の力。
英霊召喚は地球という星に蓄えられた情報を人類の利益となるカタチに変換するもので、サーヴァントはその英霊を現実に“在る”ものとして扱うもの、在るのか無いのか判らない存在にクラスという器を与えて“現実のもの”にした存在。[[魔術師]]ではなく人類史そのものが作り出した使い魔であるため、「かつて記録された現象を呼び出す」という意味で境界記録帯と呼称される。
この世の道理から外れながら、尚この世に干渉できる外界の力こそが英霊の本質とされ、その力を利用して外界にでようとしたのが聖杯戦争となる。ただし、霊格が高い程[[ガイア]]寄りの存在になっていくため、霊長の守護者とは同じカテゴリーながら異なる立ち位置の存在でもある。
英霊を英霊たらしめるものは信仰、つまり人々の想念であるが故に、その真偽は関係なく、確かな知名度と信仰心さえ集まっていれば物語の中の人物や概念、現象であろうがかまわない。果ては[[ブケファラス|馬]]や[[加藤段蔵|絡繰り人形]]であっても英霊になり得る。ただし、大抵のサーヴァントは虚構のみで成立するものではなく、基礎(ベース)となる神話、伝説、実在の存在がある。虚構だけで成立し得るには、[[ナーサリー・ライム|絵本のように子供を守る概念(ユメ)が結晶化したもの]]など、それ相応の理由がなければならない。
英霊は時間軸に関係なく召喚されるが、近代兵器で身を包んだ未来戦士のようなサーヴァントが召喚されることはまずない。近代兵器の最たる利点は“鍛えれば誰でも使える”という事。だが、そうであるが故に“たったひとりの存在”にはなりづらい。それは顔のない英雄と同じ。近代兵器に身を包んだ英雄がいたとするなら、英霊として扱われるのは“鍛えれば誰でもなれるエキスパート”たる所有者ではなく、“その時代でもっとも優れた兵器”そのものが英霊として祭りあげられる、かつ兵器そのものに魂が宿らなくてはならない<ref group="出">コンプティーク VOL.2 Fate道場出張版</ref>。
英霊の座
英霊は死後、時間の軸から外れた場所「英霊の座」に招かれている。召喚される英霊は一部の例外を除けばあくまで座からコピーされた分霊であり、英霊本人が直接召喚される訳ではない。そのため聖杯戦争中にサーヴァントの身に何が起きたとしても、座の英霊本体にまで影響が及ぶ事はない。
人類史の中で功績を刻もうと、なんらかの事情で死ぬ間際、あるいは死ねなかった事で世界が終わる時まで生き続けなければならない者達は英霊の座に招かれない。この場合例え英霊クラスの実力を持っていても厳密には英霊ではない為、本来は召喚されることは不可能。
英霊の座は時間軸から独立しているのと同様、[[並行世界]]を跨いでも同一である。そのため例えば「[[衛宮士郎]]が[[エミヤ]]になる前に死ぬ世界、あるいはエミヤにならない世界」であっても英霊エミヤが召喚されることがありうる。ただし『[[Fate/Grand Order]]』の[[人智統合真国 シン|中国異聞帯]]のように、人々の生活が完全に満たされて「祈り」を誰も抱かなくなった結果、英霊の座への接続が途切れて英霊召喚ができなくなることもありうる。
英霊の状態
サーヴァントは基本的には死亡時ではなく、その英霊が“最も強かったとき”である全盛期の姿で召喚されるが、技術や記憶などは死亡時のモノまで含めて持つ<ref group="注">ただし肉体に精神が引っ張られる為か、未来の記憶に実感が湧かない事もある。</ref>。そのため若い全盛期の身体能力と年老いた晩年までひたすら鍛え上げられた技術を併せ持つサーヴァントや、全盛期の人間性と晩年の記憶を持ったサーヴァントとなることもある。ただし、強い呪い、ないし本人の執着があるのなら死ぬ直前の姿で現れることもあるとのこと。<br>
複数のクラスに該当する英霊の場合、クラスによって顕現するサーヴァントの肉体年齢が違うということもある。このため同じ聖杯戦争に同一人物が別クラスで召喚され、直接対決することも起こりうるという。例えば、全盛期を異なる形で二度迎えた[[李書文]]などの場合、荒々しい拳を振るう若い時期で召喚されることも、合理的な拳を振るう老人の時期で召喚されることもある。<br>
芸術家のサーヴァントは感性こそが才能であり、彼らの言う全盛期とはその感性が一番強い時である天才だった頃が召喚対象になるため、英霊それぞれで召喚される姿の年齢が異なる。[[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト|アマデウス]]曰く、子供の姿で召喚される芸術家は『成長したら節度のある正しい大人になった芸術家』、大人の姿で召喚される芸術家は『大人になっても成長しない、死ぬまでクズだった変人』と語っている。
サーヴァントの精神年齢は肉体に引き摺られやすく、若い頃の肉体であれば若い頃に引き戻り、老いた頃の記憶はどこか他人事のように感じることも多い。[[アレキサンダー]]や[[メディア〔リリィ〕]]のように全盛期ではなく、少年少女時代の側面として召喚されている場合では、大人になった自分の記録があるが記憶でないために実感は薄くなっている。
サーヴァントは一人の英雄の一つの側面を抽出して召喚するものであり、ヴラド三世のように[[ヴラド三世 (Apocrypha)|祖国を護った領主としての面]]を抽出された場合と、[[ヴラド三世 (EXTRA)|狂信的な騎士や武人としての面]]を抽出された場合で同一クラスでありながら別人のような姿で召喚されることもある。<br>
また、[[ディオスクロイ|神話の双子]]、あるいは[[アン・ボニー&メアリー・リード|相棒と共に伝説を残した者たち]]のように二人一組で召喚されることもある。<br>
例外的ながら複数の伝承を同時に内包した状態で召喚されるサーヴァントも存在しており、その場合は精神面に影響が表れている事がある。[[ビショーネ]]は無数の可能性を抱えるがためにふわふわとした不安感を覚えており、[[黒姫]]は「蛇に嫁いだ」「蛇を殺した」という様々なパターンの物語が重なった結果「蛇を愛し、蛇を嫌う」という存在になっている。アストルフォを始めとする[[シャルルマーニュ十二勇士]]のメンバーも全員「史実の聖騎士としての記憶」と「幻想物語の冒険譚の記憶」の二つがコンフリクトして苦しんでいる模様。
後の口伝、伝承や形作られたイメージの結果、生前、実在の人物から歪められてしまったものや、<ruby><rb>誇張</rb><rt>カリカチュア</rt></ruby>されているものも存在する。前者は吸血鬼としてのイメージを付与されてしまった[[ヴラド三世 (Apocrypha)]]や、無辜の怪物のスキル持ちが該当する。後者は例えば[[チャールズ・バベッジ]]は英霊として機械の鎧を纏っており、[[トーマス・エジソン]]は特殊な現界だったため生前の情報とはかけ離れた姿になっている。また、[[ナポレオン]]は生前に使っていない大砲を装備していたり、後に登場するエクストラクラス「[[アルターエゴ]]」にもこの事例が関わっている。それ以外にも実在とは異なる形で伝承が後世に伝わった結果、男性として伝えられていたが実は女性であるケースや、純粋な人間ではなかったケースもある。
『Fate/Grand Order』ではこの辺りがより複雑かつ異例化しており、特異点および異聞帯で縁を結んだ[[主人公 (Grand Order)|主人公]]の認識<ref group = "注">汎人類史側でありながら異聞帯の外見で召喚された[[イヴァン雷帝]]と[[項羽]]、[[キングゥ]]のスキルや戦闘能力を所有している[[エルキドゥ]]、後天的に「狂化」を付与されたことで『吸血鬼』要素が強まりバーサーカークラスで現界した『[[Fate/Apocrypha]]』の[[ヴラド三世 (Grand Order)|ヴラド三世]]などがこれに該当する。他にも本来のバーサーカーとは違う[[クー・フーリン〔オルタ〕]]や同名のよく似た別人に当たる[[妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ|ブリテン異聞帯]]の[[モルガン (Grand Order)|モルガン]]、並行世界の存在である女性の[[宮本武蔵]]や男性の[[アーサー・ペンドラゴン]]が召喚可能になったのもこの影響を受けている。</ref>に加え、常夏の島に召喚された、ハロウィンやクリスマスの様に特別な時期になった、その場のノリ等の理由で、自ら霊基をいじって調整する、聖杯の力を使うといった手段を使い元になったサーヴァントからクラスチェンジが為される事もある。この場合普段と異なる服装、クラスにより多少性格が開放的になるなど変化は見られるが基本的には同一人物ではある。だが、チェンジ前後の霊基が分離するのか、上記のように同一人物が別クラスで召喚されるようになる(実質分裂、あるいは増殖に近い)。ただし、サーヴァントがきちんと水着に着替えるには、霊基を弄くらなければならない。<br>また、この関係性から実質的に'''同じ人物が一堂に会する'''事態が多く発生しているものの、現界時と同様に『自分じゃない自分がいる』という認識が発生するのみに留まっている。ただし、別クラスであっても'''同じ<ruby><rb>霊基</rb><rt>魂</rt></ruby>を持つ同一個体'''と見なされているサーヴァントはこのパラドックスを矛盾なく解消するため、双方が互いを人型の靄としか認識出来ないという処置が取られている<ref group="注">作中では[[両儀式〔アサシン〕|両儀式]]と[[両儀式〔セイバー〕|『両儀式』]]、[[アルトリア・ペンドラゴン|セイバーのアルトリア]]と[[アルトリア・キャスター]]、[[酒呑童子]]と[[伊吹童子]]が該当する。</ref>。
サーヴァントは召喚された時、生前の記憶の他に聖杯からその時代・地域の基本的知識や言語能力などを与えられている。また、英霊の座においてはあらゆる時代の他の英雄の逸話をある程度学ぶことができる。逆に召喚された年齢によっては生前の記憶にも一部制限がかかり、召喚された時代に適合しない知識は逆におぼろげになってしまう。実際、[[異聞帯]]で召喚されたサーヴァントには、その異聞帯には存在し得ない家族の記憶や、犬や猫のような「異聞帯には存在しなくなった動物」についての知識が不確かになってしまった例も存在している。
英霊の分類
英霊の分類としては、生前の偉業が称えられ英霊となった「英雄」 、そういった英雄たちに本来ならば打倒されるべき存在の「反英雄」、生前に英雄としての力の代償として死後の自分を星に売り渡した「守護者」、英雄と呼ばれるには格が低い朧げな「[[幻霊]]」、人知を超えた高位存在である「[[神霊]]」などが挙げられる。
なお、世界は「人間の道徳」ではなく「存続に有益」な方を採用し、人理継続のためならたとえ悪であっても有効に使い、人理継続を願わないのなら、たとえ義があろうと不要な英霊として召喚を不許可している<ref group="出">『ハロウィン・カムバック!超極☆大かぼちゃ村~そして冒険へ……~』第十四節「歌を歌おう」。</ref>。
反英雄
読んで字のごとく、英雄の反対、度し難い殺戮者を意味する。幼いままの願望を持つもの。綺麗ごとを信じ、そのために汚れ役を引き受けるもの。自らを強大な悪とし、有象無象の小さな悪を打ち消すもの。言ってしまえば、存在そのものが悪とされるものでありながら、その悪行が人間全体にとって善行となるもの。本人の意思とは裏腹に、周囲の人間が救い手と祭り上げたもの。端的に言えば人柱や生贄が該当する。例え極悪人だとしても、その人間を生贄にすれば村人全員が助かるならば、それは間違いなく英雄と呼べる。
反英雄は被害者でありながら、究極的な加害者でなくてはならない。人が生み出したモノでありながら、決して人の手が混ざらずに成長するモノ。その矛盾こそがあらゆる抑止の圧力を免除される“世界の敵”。英雄と称される生贄が食い殺されようが地中に埋められようが関係ない。貧乏クジを引かされた者、一方的に押し付けられた汚れ役が人々を救う偉業を成し遂げたのなら、それは罪人ではなく、英雄へと昇華される。大事なのは祭り上げる側の意識で、敬意や感謝、罪悪感などで祭り上げられて生まれるのはまっとうな英雄となる。ただ、純粋な反英雄はそうはおらず、存在しないモノ。そういうものがいてくれたら良い、という人間の願望。原罪を否定する為の生贄、人間の生み出した一つの終末(理想)。平穏と同義とされる、叶う事のない願いの一つが反英雄と呼ばれるモノ。
守護者
守護者とは、世界が[[抑止力]]として使用する英霊のこと。世界を滅ぼす要因に関わる人物を皆殺しにして人間全体を守るため、守護者も反英雄に含まれる。詳しくは「[[アラヤ#霊長の守護者|アラヤ]]」のページを参照。
純正の英雄
反英雄ではない英雄が全て純正とされる。真っ当な英霊であり、呪いに耐性がないため、黒い影に触れるだけで激しい痛みとともに霊基が蝕まれる。反英雄は根が近いため蝕まれはするが、強い痛みはない。