過去
先々代の王ルガルバンダと古代の女神リマトとの間に生を受け、3分の2が神、残りの3分の1が人間で出来ていた。<br>
青年になったギルガメッシュの横暴さは増していき、“本来の使命”を果たしていないと見なされ、それを戒めるために一つの生命が地上に送り込まれた。その名はエルキドゥ。ギルガメッシュと同じ、神の血を与えられた神造の人である。<br>
両者激闘の末、どちらともなく倒れ込み相手の武勇を認め、無二の友人となった。対等の者がいなかったギルガメッシュにとって、初めて“友”と呼べる存在ができた瞬間である。<br>
以後、ギルガメッシュの王政は軟化を見せ、ウルクを守るために神獣フンババの退治に成功。この頃のギルガメッシュは眩しく強大で、神々でさえ目を逸らせない存在だった。<br>
やがてそんなギルガメッシュに、豊穣の女神イシュタルが恋をする。彼女から求婚されるも、イシュタルの残忍性を知っていたためにギルガメッシュはこれをあっさりと跳ね除ける。<br>
イシュタルはギルガメッシュに侮辱されたと激怒し、父であるアヌ神に泣きついた。報復として、嵐をまとう超高層の災害であり、地上に現れた時7年間の飢饉と破壊(ウルクの滅亡)を招くとされる最強の神獣“天の牡牛”を地上に放ってしまう。エルキドゥと協力して立ち向かい天の牡牛を撃退するも、イシュタルの怒りは当然収まらず、人の身で神の獣を殺した事を罪として彼女は両名どちらかの死を神々に求めた。<br>
結果、イシュタルの願いは聞き届けられ、両名のうち一人、神に作られたエルキドゥはその命に逆らう事が出来ずゆっくりと衰弱死した。<br>
唯一の理解者であり、友人のエルキドゥ。彼の死が、ギルガメッシュにどれほどの影を落としたのかは後の彼の生涯が語っている。
;天の楔
:神と人とを分かつまいと作られた『'''天の楔'''』。ギルガメッシュに与えられた本来の使命であり、神々に望まれた彼の在り方。
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:霊長類の時代が始まり、人が人として思うままに振る舞い始めた狂乱期の幕開けの時代に、王としてデザインされた一つの生命。これまでの支配者だった神の血と、これからの支配者である人の血。二つの特性を現す、全く違う生き物。<br>
:前提として神は「元からあったものが神になったもの」と、「神として生まれ変わったもの」の2種類に大別される。前者を「古代の神」、後者を「現代の神」と分けられており、古代メソポタミアの神は前者、自然現象が意思と人格を持った古代の神にあたる。<br>
:生命には自分たちが住む地盤を、住みやすい環境に整える本能──生存力とよばれるものがあるのだが、古代の神は其れが欠けていた。どれほどの強大なエネルギーを持っていようとも、あくまで'''ただそこにあるだけのもの'''でしかなく、獲得した人格、独創性、認識力は人間と大差ない。神々が如何に全能の知性を持っていようと、出せる結論やかたちどる人格は一つだけ。
:その点、神々にとって人間達の持つ世界の変革力は脅威だった。ひとりひとりでは小さいが、とにかく数が多く、平均値が高い。大権能を持つ個こそいないものの、他の生命体より高い水準の知性を持ち、それがすべての人間に備わっている。
:人間の欲望は限りなく、とめどなく、惜しまれることもなく、世界は人間の欲望のまま変貌していく。'''このまま人間が繁殖すれば星のルールが変わり、自然現象に意思が不要になる時が訪れる。'''神々はその未来を恐れた。
:結果、人間側でありながら神の陣営に属する新しい統治者を欲しがった。神々が言うに、ソレは「楔」。天と地を繋ぎ止めるものとして、神と人の決壊を防ぐべく打ち込まれた防衛措置。
:まっとうな生の営みによって生まれたわけではなく、初めから神の代弁者として君臨し、人間をいさめるために設計されたモノ。神造の発明品。それがギルガメッシュである。
:『'''星の抑止力'''』によって生み出されたその本質は、人類の歴史の観測者にして裁定者という、いわばムーンセルと同種の存在であるという。
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:人と神、どちらの視点も持つが、最終的には神側に落ち着く超越者を作ったこと。自然崇拝から人が離れていくことを恐れた神々がとった対策は正しかった。
:最大の誤算は、作られた彼が、神の思惑通りに動かなかったことである。
:ギルガメッシュは王として己を定め、己が良しとする王道を見極めた。ウルクを治めたのも神の意に沿ったわけではなく、「ウルクがよいものだったから」。
:そんな彼が自身に定めた王道とは、「己に相応しい宝を獲得し、守護する」こと。「人間の守護者として、星の文明(みらい)を築く」こと。ギルガメッシュの根底はそこにあり、その仕事が済んだあとで対等に渡り合った者の死を目の当たりにする。
;不老不死の旅
:友エルキドゥを奪った死を嫌い、怖れ、己の生に恐怖したギルガメッシュは、それまで生きてきたのと同じ年月をかけ冥界を目指し旅立つ。不死を得た賢者ナピシュティムに会うために。不滅の身を求めたのは何のため、誰のための行動であるかは分からなかった(真実は彼の王道にある)。
:長らく荒野をさまよい冥界へと辿り着くと、かつて地上を襲った大津波から逃れ生き続けるナピュシテムという賢者(老人)に出会う。ところが、その賢人は神の序列に加わっただけで不死に秘密などは無かったのだということを知り、更に賢人が半ば植物と化している事実を目にしたことで、冥界を後にした。
:そのとき何の気なしか、ナピュシテムから「神に乞わずとも、深淵にある不老不死の霊草があれば不死になれる」と教えられ、宝として蔵に収めるため深淵に立ち寄り霊草を回収する。その帰路の途中、泉に立ち寄り水浴びをしていた最中に腹をすかせた蛇に霊草を食べられてしまう。
:そのとき、ギルガメッシュに起こったのは“笑い”だった。
:本人としても心の何処かで期待していた、不老不死を手に入れたことで友の雪辱を晴らすことや民の賞賛などの我欲を捨て去れた瞬間であり、ギルガメッシュが人として生まれた瞬間でもある。
:元より未来を見通す眼(まなこ)がある自分に不滅の身など必要ないと悟り、未来永劫不屈の身で生の喜びを謳歌できるはずもないと、すがすがしい気持ちでウルクへ戻った。
:その後、ギルガメッシュは苛烈さこそあるものの穏やかに国を治め、城壁と宝物庫を完成させると、次の王に都市を委ねて永眠した。
;別視点で語られる過去
:人と星を守護しその行く末を見届ける。ならば神を憎み人間を嫌う。幼年期は神を認め敬い人を愛して守り、成人後は神を憎んで廃し人を憎み好んだ。
:この王道を定めたギルガメッシュ(彼)の半生を、「ワタシ(エルキドゥ)」から見たもの。
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:──ワタシと同じ、神に作られた人形に天罰を──。
:エルキドゥは、ギルガメッシュがまだ幼年期にいる早い段階で作られたとされており、母親であるアルル女神から「楔を神の元へ戻すように」という使命を授かっていた。
:神から見たらおごりきっていたが、幼年期の彼は理想の少年王であった。
:ところが少年から青年へと成長した彼は、その数年の間に豹変し、独裁と圧政を行うようになっていた。
:その理由は、「ありあまる力がありあまる孤独を生んだ」から。
:人でも神でもない、超越者として作られた彼が持つ視点はあまりにも広く遠く、生命として孤立し、神々でさえ、彼が見据えるものを理解できていなかった。
:それでも彼は、自らが自らに課した使命から逃げださず、王であることを捨てなかった。
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:そして二人は対峙する。万象自在に変化するエルキドゥに、ギルガメッシュは持ち得る全ての力を振り絞り、やがて追い詰められ、彼は初めて秘蔵していた財宝を取り出す。最後には楽しみながら惜しみなく、財を投入した。
:戦いはどちらの勝利ともつかず、ギルガメッシュの晴れ晴れしい声の語りで結ばれる。
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:ギルガメッシュが孤立を選り好んだ理由。それは、彼が自身に定めた王道が、一人で進まなければならない道だったからである。
:ギルガメッシュにとっての守護とは「見据えること」。その為に神を廃し人を憎むのであれば、王は孤立した者でなければならない。人々の未来が好ましく思えば思うほど、彼は何者にも関われなくなる。
:人間が築く結果が生む“輝かしい過程”に、人間以上である彼が関わってはならず、王が手にできるのは結果のみである。その様を、エルキドゥは「裁定者にして収穫者」と例えた。
:エルキドゥから見たギルガメッシュは、神の子として作られていながらその神々に逆らい続けた英雄であり、初めから魂と自由意志を持つ“本当の生命”で“真に価値のある星”だった。エルキドゥはギルガメッシュに憧れ、憎んだのである。
:そんな彼と違い、自身を道具であると卑下するエルキドゥに、彼は“友”という唯一の価値を与えた。未来永劫、彼自身が孤独であることを代償にして。
:弱きを知りながら、弱きを省みる事はなく、強きを知りながら、強きを認める事はなかった。理解者などいらない。孤高であり続ける。それがギルガメッシュの最大の誠意だった。エンキドゥはその矜恃に永遠の疵を付けてしまった事を、死してなおも悔恨を抱いている。
;王の帰還
:不老不死の旅を終えかくしてウルクに戻ったが、長旅にかまけ放浪した王に民たちは呆れて他の都市に移り住んでおり、唯一残ったシドゥリも「一言文句を言わないと気がすまなかった」と恨み節を展開。新たな目的を探していたギルガメッシュは城塞都市を考案し、廃墟同然となってしまったウルクを立て直す事に成功した。
:この“帰国後のギルガメッシュ”は『Grand Order』にて初めて描かれたが、特異点になったウルクを治めながら魔術師としての姿を取っており、他の世界線での彼も同じ状態であるかは定かではない。『Grand Order』第七特異点の真相からすると、統治具合や迎えた最期についてもそれ特有のものである可能性がある。