衛宮士郎 (美遊世界)

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ここでは『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』における美遊の兄である衛宮士郎について説明する。
Fate/stay night』での衛宮士郎については「衛宮士郎」を参照。
『プリズマ☆イリヤ』におけるイリヤの世界の衛宮士郎については「衛宮士郎 (プリズマ☆イリヤ)」を参照。

衛宮士郎 (美遊世界)
読み えみや しろう
性別 男性
声優 杉山紀彰
初登場作品 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!
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概要

『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!』で登場。美遊の義理の兄にして、イリヤ世界の平行世界にあたる美遊世界の「衛宮士郎」。
「美遊の兄」という名称はアニメ版でクレジットされたもの。従来の士郎との区別やネタバレ防止のため、ファンからはクレジットと同様に「美遊の兄」もしくは「美遊兄」と呼ばれることがある。

略歴
幼いころに災害で家族を失い、自身も瓦礫に埋もれて死に瀕していたところを衛宮切嗣に救われる。その後は切嗣の養子兼助手として人類救済の方法を探す旅を共にする。
本編から5年ほど前に、神稚児信仰を現代に伝える朔月家を調べるために冬木市にやってきた際に、人の願いを叶える力を持つ、朔月家の神稚児美遊に出会う。謎の災害によって孤児となった美遊を人類救済の手段とするために引き取った。
切嗣の死後、美遊と兄妹のように暮らしながら、桜、ジュリアンとともに学校に通う平穏な生活を送るが、切嗣から託された人類救済の願いと、その破格の願いを叶える代償として、魂ごとこの世界に永久に縛られることになるという美遊への情との間で苦悩していたが、ある夜、「士郎さんと本当の兄妹になりたい」という美遊の願いを聞いたことで、切嗣から引き継いだ理想を捨てて美遊と本当の家族になる道を選んだ。
本当の家族としてやりなおすために、美遊を朔月家の跡地へ連れて行き、美遊の神稚児としての力と、美遊を引き取った本当の理由を告白しようとしたが、人類救済の願いを叶える道具として美遊を探していたジュリアンに美遊の所在を知られてしまい連れ去られてしまう。
親友であったジュリアンと敵対し、妹の美遊を奪われ、さらに平穏な日常の象徴だと思っていた桜までも聖杯戦争によって失い絶望するが、桜の遺した屑カードを手に自分自身を触媒とすることで英霊エミヤの力を授かり、美遊を救い出すためにエインズワース家の聖杯戦争に臨む。
死闘の果て、聖杯戦争において勝者となり、集めた7枚のクラスカードを使って「美遊が幸せになれますように」と願う。かくて美遊を平行世界(イリヤの世界)へ転送させる事に成功するものの、自身は最後の戦いで力尽き、エインズワース家の地下牢にて拘禁されていた。
美遊が元の世界に連れ戻され再びエインズワース家に囚われた後、美遊救出に訪れたイリヤ達はこの世界における士郎が監禁された地下牢を発見し、それを好機と見た士郎は妹の救出を託す。紆余曲折あって起きたイリヤ達とエインズワース家の戦いから隙を伺い、どさくさに紛れた子ギルにより救出された彼は、妹を助けるために夫婦剣を手にした。
人物
切嗣から受け継いだ正義を捨て、ただ一人の妹の幸せを願った、衛宮士郎に於ける一つの可能性。
本編の衛宮士郎と同じく、切嗣を「正義の味方」として憧れていたが、切嗣の助手として幼少期から戦争や災害の現場を見てきた為、切嗣の正義が「百を救う為に一を切り捨てる」事しか出来ないということを理解していた。それでも切嗣の正義を正しいと信じていたが、美遊を人類救済のための道具として扱う切嗣と自身に無邪気な親愛を寄せてくる美遊との間で板挟みになり、自身が願う「正義」に疑問を覚える。
志半ばで倒れた切嗣から美遊を使った人類の救済を託されるが、美遊を道具として扱う事も、かといって完全に人として育てる事も出来ず、屋敷の中に秘匿したまま数年の時を過ごすうちに、美遊とのあいだに兄妹のような絆を育んでいくことになる。
美遊を犠牲にして人類を救済しようとするエインズワース家を「正義」と認めているが、望む総てを叶える事が出来たにも関わらず、子の健やかな成長のみを想い続けた遡月家を悪と糾弾するのならば、俺は「悪」でいいと己が信念を貫き通した。
その過酷な経歴からか、本編の士郎と比較しても口調や声が大人びており、敵対する者は武力抗争で黙らせ、美遊を救う為に情の一切を捨てている。映画では美遊を奪われた後に目の光が消え、虚ろな瞳には哀憫だけが残っていた。
stay nightの衛宮士郎よりも自分自身が贋作者だと自覚しており、自分という人間そのものが偽りで構成されていると理解している。そのためアンジェリカやジュリアンからは「偽物」と称されてもすんなりと肯定し、「無限の剣製」詠唱時には、この躯体は紛い物と唱えた。
本編の士郎と同じく家事全般を得意としている。また、美遊の着替えは大体手伝っていたらしく、着付けは勿論のこと、イリヤの兄である方の士郎が四苦八苦した髪の結びも得意としている。
保護者不在、男手一つで妹を育ててきたためか、本編やプリヤ時空の士郎と比べると若干女性の扱いに慣れている。とはいえ、桜以外に年頃の女性と積極的に付き合ってきた経験がないためか、アンジェリカが俗にゴスロリと呼ばれる装いに身を包んだ時は目のやり場に困っていた。
能力
『stay night』同様に投影魔術を駆使して戦うが、その力の実態はクラスカードによって自分の未来の姿の可能性である英霊エミヤの力を自身に憑依させ、その技能と魔術回路を前借している事によるもの。
本来クラスカードは一時的に英霊の技能や宝具を借り受けるという旨のモノだが、「自分自身のカード」をインストールしたことで、エミヤの技能と魔術回路を先取りし、起源も変化するなど、絶え間なく戦い続けた事によって士郎の身体は英霊エミヤという存在に「置換(侵食)」つまりは存在を上書きされていた。その影響から前髪の一部分は白に変色し、力を行使すると肌から焼けた様ような煙が吹いた後、左の頬から首元・左腕まるまる褐色へと変わっていた[注 1]
本人曰く「魔術回路を先取りしただけで入れ物はポンコツのまま」。「無限の剣製」も使用可能なようだが、エインズワース家との決戦の際には魔力が十分に無い為、不発に終わってしまった。
なお、魔術については正しい形で教示されていたらしく、鍛錬の際は強化した定規で鉄パイプを微塵切りにしている。
過去に行われた第五次聖杯戦争では英霊エミヤのカードを使用して、ヘラクレスやアーサー王などのカードを使用するエインズワース家からの刺客を悉く撃破して聖杯戦争の勝者となった。美遊を平行世界へ逃がすための儀式が完了するまでの時間稼ぎとして、ギルガメッシュのカードを使うアンジェリカと戦った際は、もはやクラスカード無しでも英霊エミヤの力を行使できるほどに置換(侵食)が進んでおり、固有結界『無限の剣製』を展開し、神造兵装であるイガリマ・シュルシャガナすら(中身のないハリボテとしてだが)投影し、乖離剣エアのエヌマエリシュを結界内の全ての剣を束ねて迎撃するなど、まさに人間離れした力を振るった。
しかしそれらは本来の魔力量としては到底不可能なレベルの魔術行使であり、それを可能としたのは美遊との間に知らぬ間に繋がっていたパスから膨大な魔力が送られていたためである。士郎の願いが成就し、美遊が平行世界に旅立った瞬間、魔力供給が途切れ力尽きた。

クラスカード / 宝具

各カードと宝具の詳細な性能は各々のページを参照。ここでは士郎の固有の仕様や、作中での使用状況を記述する。

クラスカード・アーチャー
限定展開
弓(矢は付属しない)
夢幻召喚
一時的に英霊エミヤを身体へと現界させ、エミヤの鍛え上げられた投影魔術と起源、彼が臥薪嘗胆の果てに得た技能と経験を得る。
元はどの英霊にも繋がらない失敗作の「屑カード」だったが、士郎自身が触媒となる事で英霊エミヤへと繋がったイレギュラーなカード。
インストールした際の容姿はアンリマユやリミテッド/ゼロオーバー、エミヤの装いを合わせたような姿であり、白い羽織の下に右腕が露出した赤い外套を纏い、頭部にバンダナを着けた姿となっている。

使用した武器

Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

定規
強化の魔術の鍛錬に使用。鉄パイプを容易く切り裂いた。
巻き尺
ジュリアンを攻撃する際に使用。金属製の計測部を伸ばした上で強化し、剣のように扱う。
黒鍵
エインズワース家の結界を破壊するために使用。言峰から結構な額で二本入手するが、効果はなかった。
慎二の攻撃を防ぐ際に使用。
手榴弾、キャレコM950、地雷
バーサーカーと半ば融合した桜と戦うために使用。切嗣の遺品なのか投影品なのかは不明。
銃弾自体は武器としては認識されず、他も爆発したらそれで終わりなので「奪ったものを武器とする」バーサーカーに対して有利な武器。

投影宝具

干将・莫耶
対となる白色・黒色の夫婦剣。『Fate/stay night』の士郎同様、メインの武器として多用する。
普通の斬撃や投擲の他、大量に投影して突き刺して一斉にオーバーエッジにすることでズタズタに引き裂く大技も使いこなした。
是・射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)
バーサーカーから斧剣ごと投影した秘剣。数多くある「射殺す百頭(ナインライブズ)」の形態うち、対人用である全ての斬撃が一つに重なって見えるほどの「ハイスピードな九連撃」。
熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)
七枚の花弁を展開する結界宝具。
虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)
斬山剣とも称される、全長数十メートルはある巨大な剣。元々はギルガメッシュの蔵の中に入っていた。
れっきとした神造兵装であり本来なら投影は不可能だが、全行程をキャンセルすることで形だけのハリボテとして投影する。
過去編におけるアンジェリカとの戦いにおいて、アンジェリカがゲートオブバビロンから召喚した原典のイガリマを迎撃するために投影した。
また、その大きさを生かして離れた場所までの足場として使用したこともある。
絶・万海灼き祓う暁の水平(シュルシャガナ)
イガリマと対になる炎の巨剣。龍の翼のような形状と赤熱した刃を持つ。
イガリマと同じく、アンジェリカが使用した原典のシュルシャガナを迎撃するために、全工程を破棄したハリボテとして投影した。
偽・螺旋剣(カラドボルグII)
フェルグスが所有していた、対軍宝具を投影し、改造したモノ。
触手の怪物と化した慎二を消し飛ばそうとしたが、触手の怪物をデコイとして背後に回り込んでいた慎二に気付き、背後に向けて突き刺し返り討ちにした。
セイバーをインストールしたザカリーとの戦いにおいてもゼロ距離で『壊れた幻想』として放ち致命傷を負わせた。
また、劇中では描写されていないがバーサーカーをインストールしたベアトリスもこれで撃破されたとか。

登場作品と役柄

Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
ドライで美遊の住む平行世界で登場。エインズワース家に幽閉されていたが、ギルガメッシュの手引きで表に出る。原典同様に投影魔術を使う。

人間関係

プリズマ☆イリヤ

朔月美遊
最愛の義妹。彼女からは本当の兄妹になりたいと思われるほどの親愛を寄せられている。
ジュリアン・エインズワース
妹の美遊を捕えた仇敵。かつては穂群原学園での友人同士。
アンジェリカ・エインズワース
美遊を捕えた仇敵の一味であり、自分を長期間拷問した人物。
ただ、敗北してジュリアンから見捨てられた彼女を家に招くなど、彼女には強い悪感情を抱いていない模様。
逆に、彼女は(ギルガメッシュのカードに性質を引っ張られていたのもあってか)士郎のあり方を獣にも劣る存在として珍しく怒りを抱いた。
衛宮切嗣
恩人で憧れ。だが、災害に背を向ける姿や美遊に対する態度に迷いも抱いていた。
ちなみに、士郎と切嗣の最期の会話は月がなく、星しかない空の下での会話だった。
間桐桜
弓道部の後輩。一般人と魔術師の板挟みであった士郎にとっては日常の象徴「の投影対象」であったが、後に聖杯戦争関係者だと知る。
「何もかも捨てて一緒に逃げよう」と言われて心が揺れるが、彼女を選ぶ事は無かった。
切嗣や美遊のことで頭がいっぱいで余裕がなかったため、彼女には振り向かなかった。
後に衝撃的な再会を果たし、変わり果ててしまった彼女を救うために「殺す」ことを決意し、最終決戦でも共に虚数の海に沈んでいくが、自我すら薄れかけた状態で「失われたはずの桜の心臓」を虚数の海の中で見つけ出し、彼女を復活させることに成功した。
エミヤ
夢幻召喚したカードの英霊。とある平行世界で英霊に至った彼の生涯を理解して「自分と切嗣の目指した正義の完成形」と評した。
やがては彼になって自分自身を失う事を理解していたが、完全に失われる寸前に桜がクロエから奪っていた「破戒すべき全ての符」によって土壇場で契約が破棄された事で自分自身を取り戻し、精神世界の中で彼に別れを告げて復活した。……直後に現実世界でも背中顔を合わせることになったが。
言峰綺礼
ジュリアンに襲われた自分を助けてくれた存在。彼の説明を受け、美遊を取り戻すことを決意する。言峰への印象は「胡散臭い」。
ちなみに、士郎は言峰からぼったくりのような値段で黒鍵を買った。
間桐慎二
第五次聖杯戦争の初戦で戦ったドールズ。登場当初は記憶が曖昧だったが敗北の後、死への恐怖によって慎二としての記憶とその身に起こったことの全てを思い出し、「疲れた」と言い残し士郎に介錯を頼んだ。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
妹にできた大切な友達。
クロエ・フォン・アインツベルン
妹の友人であり、自分と力の源が同一の存在。
イリヤの事を第一に考えて自分を省みない彼女の戦い方を心配しているが、同じ問題を抱えていると言い返されてしまう。
ベアトリス・フラワーチャイルドケイネス・エルメロイ・アーチボルト間桐雁夜アトラム・ガリアスタザカリー・エインズワース
第五次聖杯戦争で撃破したドールズ達。

名台詞

Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!

「美遊がもう苦しまなくていい世界になりますように」
「やさしい人たちに出会って―――
 笑いあえる友達を作って―――
 あたたかでささやかな―――
 幸せをつかめますように」
『ツヴァイ』『ドライ』にて。願望器である美遊に向けられた祈り。
この「願い」によって美遊は平行世界へと跳び、すべてが始まった。
「とも……だち…?」
「………」
「…はははっ…」
「そうか…… そうなのか…」
「叶っていたんだな……」
『ドライ』第3話。エインズワース家地下牢におけるイリヤとの邂逅。イリヤが発した「わたしはミユの友達です!」の言葉に対して。
美遊が連れ戻されたことを知らされて絶望に沈んでいたところに、イリヤの言葉を聞いて自身の願いが僅かながら叶えられていた事に一筋の涙を流す。
「ああ… ああ……」
「君のおかげで…」
「もう 俺の願いの半分は叶ったよ…」
『ドライ』より。最愛の妹に命を懸けてくれる友達イリヤの存在を知り、滂沱の涙を流しながら彼女への感謝を述べる。美遊のはじめての友達が肩を並べて命すら懸けてくれる親友だった事は、それを願い続けていた彼にとってみれば確かな救いであった。
「ジュリアン やっぱりお前を倒さない限り 美遊は幸せになれないみたいだ
 お前が全のため一を殺すというなら 俺は何度でも悪を成そう
 ―――覚悟は良いか 正義の味方」
『ドライ』より。正義を名乗り、世界を救済する為に妹を犠牲にしようとするジュリアンに対して。
理想は消え落ち、姿は砕け、「最低の悪」と自称する。
「………… ……ああ …そうか…お前はもう
 独りじゃなかったんだな 美遊」
『ドライ』より。イリヤとクロ、凛にルヴィアやバゼットが次々と加勢して。
「いやしかし あの破廉恥な格好はいったい… 兄として注意すべきだろうか…」
『ドライ』より。離れ離れになっていた妹と再会した際の一言。
やはり、サファイアのファッションはかなり際どいようである。
「お前の宝具も見飽きたよ 道を譲れ… 英雄王!!」
『ドライ』より。クロとのコンビネーションで死角を突き、アンジェリカを打倒しての一言。
アンジェリカと以前に戦った経験はあるらしいが、あの決め台詞を言った上での言葉なのだろうか。
「そうさ分かってるさ 正しいのは切嗣で 間違っているのは俺だ
 思い出せ!切嗣に救われてから五年間 何を見てきたんだ………! この世界は悲劇で溢れている 滅びに向かうスピードは加速していく一方だ
 天秤の皿に乗っているのは人類全て ならばもう片方の皿に乗せるものの価値なんて考慮すべきじゃない…! 美遊アレは人類を救うためのただの手段重りなんだ…!!
 人と思ってはいけない!! 情を抱いてはいけない!! 一の犠牲で全を救う それこそが…………!!
 それこそが… 正義……… の……… …はずだ…」
『ドライ』より。幼少期で切嗣から美遊を犠牲に世界を救うと聞いて。
全を救うために一を切り捨てる。その正義を正しいと信じようとするが、美遊が士郎に迷いを抱かせてしまう。
「暗闇だなんて嘘だ 月が見えなくたって…星は輝いている
 正しく成ろうとすることが間違いのはずがない
 俺が間違いになんてさせないからな…!!」
『ドライ』より。幼少期での切嗣との最期の会話。
奇跡を追い求めた自分の人生を「見えない月を追いかける暗闇の夜のような旅路だった」と評した切嗣に対し、そのあり方が間違いではないと断言する。
この誓いに切嗣は心から安堵し息を引き取った。月夜ではなく、無数の星の夜での会話になっている。
「出てこいジュリアン!! そこにいるんだろ!?
 確かに俺は!! 正義に憧れただけで何も救えなかった偽物だ! 正義の形を 家族の形を …人としての形を 真似て取り繕ってきただけの抜け殻だった……!!
 俺は最初から間違っていた… 解っていたんだよそんなことは………! だけど…だからこそ俺は……
 『本当』を始めようと思ったんだ………!
 美遊を… 俺の妹を返してくれ…!」
『ドライ』より。エインズワース家の敷地に入れず、結界の外からジュリアンに向けた悲痛な叫び。
偽物である自分を肯定するのではなく、新しく本当を始める。ある意味では、衛宮士郎にとっては最も辛く、苦しい選択である。
「逃げろ………!!」
「全部捨てるん……だろ…!!」
「だったら…俺なんかに構うな…!! お前だけでも逃げて…」
「どこかで…幸せになれ…!」
『ドライ』より。の襲撃にさらされる中、自分を慕い案じてくれる後輩を気遣い、自身の破滅を覚悟しつつ、せめて彼女だけでも幸せになってほしいと告げた願いの言葉。しかし、その視点には「彼女が一番大事に思ってくれているもの」「彼女が幸せになるために必要なもの」の存在がポッカリと抜けていた。そして、この言葉が彼女に悲劇への蓋を開けさせてしまう。
「こんなものが 俺の人生の果てこたえなのか
 今ようやく 切嗣の言葉の意味を その無念さを理解できた
 全てを救おうとした道の果ては 全てを失う断崖だった
 月の明かりも 星の明かりすらも もはや 見えない
 奇跡は無く 希望も無く 理想は闇に溶けた
 それでも それなのに まだ……が残っている」
『ドライ』より。刺客として送られた慎二に桜を殺害され、痛めつけられた彼は、切嗣の言葉の意味を―――無念さを悟った。
月の光きせきも無く、星の輝ききぼうも無く、そして託された理想みちも失くなった。―――残っているのは、士郎というちっぽけな存在からだのみ。だが…
「―――だから、これは祈りではなく もっと独善的で矮小で どうしようもなく無価値な自分に向けた
 ―――「誓い」だ」
士郎は全てを失ったワケではない。独善的で矮小で無価値な――自分への「誓い」。例えそれが悪だとしても、例えその先が地獄だとしても、大切な美遊いもうとを取り戻す。そして、士郎の戦いはここから始まった。
「だから───遥かな彼方・・・・・へと呼びかけたんだ。
『何だって良い。誰だって良い。力を貸せ』
『その代わりに俺の全部を差し出す』────と。
「そんなガキの戯言に応えてくれる英霊なんて一人だけだった。
英霊エミヤ───遠い未来、ここではないどこかの世界。俺ではない俺が至った・・・・・・・・・・未来の英霊。世界と契約した人類の守護者。俺と……切嗣の目指した正義の到達点。
人類のために振るわれるべきその力を、俺は、たったひとりのために使うと誓った」
士郎は全てを失った。残っているのは、いや、残ってしまったのは、自分の命のみ、それでも、まだ残っている妹を助けるために、どんな手段を使ってでも士郎は残った命を使い切るまで戦う。九を救うために生きようとしてきた士郎にとってはなんとも悲痛かつ救いようの無い決意。
目的のためならどんな手段を使ってでも相手を殺す戦い方や、一を救い九を捨てる思想は、考えは正反対だが、彼の養父を彷彿とさせる。実際、劇場版では美遊を連れ去られた後は瞳に光がなく、戦闘中は、目元に彫りがあり、衛宮切嗣を彷彿とさせた。
「大切だった人はもういない。引き継いだ誇りは、自分で捨てた。…そうして、剥き出しになった自分はどうしようもなく…空っぽだった」
「そして全てを失って…ようやく成すべきことが定められた」
劇場版でのセリフ。全てを失い、剥き出しになった自分はどうしようもなく空っぽだからこそ、ようやく成すべきことが定められた、悲壮なる決意。
それが人類を裏切る悪だとしても‥‥‥……残ってしまった命が尽きるまで、彼は最愛の妹を守り続ける。
一人を守るという思想は、HFでも同じだか、HFでは、桜のための正義の味方になること、どんなことがあっても桜と共にいることが大前提だが、こっちの士郎は、妹を守るために全てを捨て、進んで悪になり、そして妹を救うため、残ってしまった命を使い切るまで戦う。それは、妹とは一緒に生きることができないということになる。この世界の士郎がHFの士郎とは似て非なる存在だとわかる。
「あらゆる願いを叶えてしまう神稚児…その力を独占してきた朔月家が何を願ってきたのか お前に分かるか?」
「彼らは――ただ 子の健やかな成長を願った 富も繁栄も思いのままのはずなのに
 親から子への…ごく当たり前の願いだけを叶えてきたんだ 四百年もの間 ひとつの例外もなく…!
 それを 悪だと言うのなら…
 俺は悪でいい」
『ドライ』より。個人の感傷で人類の救済と言う願いを無に帰すことを「人類全てへの裏切り」「最低の悪」というジュリアンに対して、朔月家の願いを代弁する士郎。
四百年間、富でも繁栄でもなく、ただ我が子が普通に幸せになってくれればいいと、それだけを願ってきた無上の愛。
それが悪だというのなら、自分は悪で構わないと。
「…そんなの 考えるまでもない
 俺はお兄ちゃんだからな 妹を守るのは当たり前だろ?」
『ドライ』より。大空洞地下で再会するも、エインズワース家によって既に真実を知ってしまい、涙ながらに諦念の意を示す美遊に対して。それは何を犠牲にしても「きょうだい」であることを決意した彼の示す事の出来る、唯一の無上の愛であった。
「どうすればよかったのか ずっと考えた
 間違い続けた俺だからこの選択も もしかしたら間違いかも知れない
 だけど この願いは本当だから」
上記の続き。ゆえに『兄』は聖杯に願った。世界を救うのではなく、大切な『妹』の幸せ…ごく当たり前の願いを叶えるために。それが、悪だと言われようとも。そして願いは「――我 聖杯に願う」の言葉とともに本節の冒頭「美遊がもう苦しまなくていい世界になりますように」へと続く。
「無限の剣を内包する世界
 俺にはこの全てが
 墓標に見えるよ」
過去におけるアンジェリカとの戦いで、自身の固有結界を展開して。
たった一人の妹の人並みの幸せの為に全人類を犠牲にする決断の果てに至ったのは、無数の剣が墓標のように突立つ、無明の雪原であった。
その世界に立つ剣の全てを「墓標」だと言い切る。まるでこれから自分の成す「悪」の犠牲になる人々の墓標であると言うかのように。
「悪いが付き合ってもらうぞ 俺のからだが尽きるまで…!」
別世界で英雄王に対して固有結界を披露した時のようなシチュエーションだが、自分自身を「間違い」と断じた以上、出てくるのは誇りある言葉ではなく妹以外のすべてを閉ざすような言葉。
この時点で、自身の狙いは美遊のための「時間稼ぎ」で、そのために自らの全てを捨て駒と定義し「生きること」そのものを放棄している。ここまでの経歴と決意を思えば当然だが、何とも悲痛かつ悲壮な覚悟を思わせる。当然、その様を理解できないアンジェリカは激怒した。
「――たったひとつが すべてを上回ることだって ある」
アンジェリカの放った『天地乖離す開闢の星』を、固有結界内の全ての剣を束ねて迎撃する。
その全てを切り裂きながら「たとえ全ての剣を束ねても、究極の一には届かない」と叫ぶアンジェリカに対して、
士郎は「――そうだ その通りだ」とそれを肯定する。
士郎にとって「たったひとつ」の美遊の命は、他の全てを束ねたよりも重かった。
『――何か とても大切な繋がりが 消えたと感じた』
 ようやく――わかった
 ずっと自分を支えてくれてたのは
『戦うための魔力ちからを送ってくれていたのは――』
 ――美遊だったんだ
恐らくは美遊が「士郎さんと本当の兄妹になりたい」と願った際に、美遊本人も気付かぬうちに繋がっていた魔力パス。
美遊が「美遊が幸せになれる世界」へ旅立った瞬間それは途切れた。
その時士郎はようやく気付く。
強敵との七連戦もの間、枯れることなくどこからか湧いて来た力。固有結界を展開し、ハリボテとはいえ神造兵器の投影すら可能とした膨大な魔力。
それは美遊から送られていたものだったのだと。
美遊のために戦った士郎を守っていたのもまた、士郎を想う美遊だった。
「大丈夫だよな美遊 きっとお前なら すぐ友達もできるさ」
「もっともっと 色んなことを……教えてやりたかったな」
「あ……そういや」
「海に連れてくって約束 忘れてた」
「まずいなぁ……怒ってるかな美遊 怒ってるよなぁ…」
「……まぁでも 俺もちょっとはがんばったし」
「許してくれよな」
別世界へと送り出した妹へと向けた、最後の言葉。妹を案じながら自らの力不足を噛み締め、その行く末の幸福を願う。
「ちょっとはがんばった」とは言うが、ちょっとどころか自らの存在すら犠牲にした、命がけのがんばりである。
そして美遊と交わした「海へ連れていく」という約束と「色んなことを教える」という願いは、並行世界の自分が、義妹美遊の親友となった義妹イリヤと一緒に確かに果たしてくれていた。
「勝ったよ………切嗣」
アンジェリカに押し負け、戦いに負けた士郎の勝利宣言。だが、戦いには負けても「美遊を逃がす」という目的は果たし、紛れもない勝利を得た。
自らを「悪」とし、それが養父の理想とかけ離れたものであると知りながら、士郎はそれでも胸を張って義父に向かいそれを誇った。
それは善悪を超越し「たったひとつ」を貫き続けた「男」が得た「勝利」の言葉だった。
「と言うか 美遊の着替えは だいたい俺が 手伝って…」
『ドライ』42話。さらりと衝撃発言。女性陣の着替えの際、無頓着に部屋に入ってこようとした際、他ならぬ女性陣から「見ちゃダメ!」と締め出された際にクロから「乙女の着替えを覗くな」と窘められ、自らデリカシーの無さを反省するとともに「妹と同じ感覚で立ち入ってしまった」という自然体の言葉を出した直後。クロから「ミユ相手なら(着替えの最中に)構わず部屋に入るのか」とツッコまれた際の天然すぎる返答。障子の向こうでやりとりを聞いていた美遊は恥ずかしさに顔を真っ赤にして「余計なことは言わなくていいの…!」と慌てて兄の言葉を差し止めた。
「パンドラの箱ってなんだ?」
『ドライ』第44話。まさかのひとこと。そして彼や美遊が所属する、この並行世界の核心に近づいてしまったひとことでもある。
「ああ……でも」
「これが俺だ」
『ドライ』第74話。紆余曲折の果てにエミヤと訣別し、桜を救い出した士郎。そして一人では立てないほどに疲弊している様をエミヤに皮肉られての返答。
一人で立てなくなっても誰かに支えてもらえばいい。憧れを手放し、本当を始め、人の道へと還っていった「衛宮士郎」の答えをエミヤは相変わらず皮肉ながらもどこか満足げに聞いていたのであった。

メモ

  • アニメ版のプリズマ☆イリヤシリーズでは、魔法少女ものの世界観に合わせてか原作と比べてかなり童顔にアレンジされていたが、『ドライ!』における美遊の兄の士郎がその容姿ではギャップが激しすぎると判断されたのか、『ドライ!』のアニメでは一転して原作寄りのデザインに変更されている。

衛宮士郎の詠唱

I am the bone of my sword.
(体は剣で出来ている。)
Steel is my body, and fire is my blood.
(血潮は鉄で、心は硝子。)
I have created over a thousand blades.
(幾たびの戦場を越えて不敗。)
Unaware of beginning.
(たった一度の敗走もなく、)
Nor aware of the end.
(たった一度の勝利もなし。)
Stood pain with inconsitent weapons.
(遺子はまた独り)
My hands will never hold anything.
(剣の丘で細氷を砕く)
――――yet,
(けれど、)
my flame never ends.
(この生涯はいまだ果てず)
My whole body was
(偽りの体は、)
still
(それでも)
“unlimited blade works”
(剣で出来ていた――――!!)
後ろ向きな詠唱となっており、心象風景も暗くなっている。夜の帳が下りた静謐を吹雪の音が砕き、雪原に無数の剣が突き刺さっている。

脚注

注釈

  1. この浸食現象はカードを通さなくても力を使うだけで進行する。投影魔術、固有結界の使用で浸食が進み体から白い煙が上がり肌が褐色に、髪色は白く変化している。

出典


リンク